笑ったときに上の口元から歯茎が大きく露出する「ガミースマイル」。
見た目の悩みとして相談されることが多い症状ですが、実は口臭の悪化とも関連することをご存じでしょうか。ガミースマイルでは、口元が乾燥しやすく唾液の働きが低下し、細菌の繁殖が進みやすい環境が生まれます。また、歯周病や歯肉の炎症とも関係し、口臭の原因が複数重なりやすい状態になります。
本コラムでは、ガミースマイルの原因、口臭との関連メカニズム、治療方法、生活習慣改善まで、医療情報をわかりやすく解説します。
ガミースマイルと口臭の関係
ガミースマイルとは?
ガミースマイル(Gummy smile)とは、笑った際に歯茎の見える幅が2~3mm以上になる状態を表します。ブログやSNSでも「ガミースマイルが気になる」「スマイルラインが合っていない」という相談が多く、審美的な悩みとして一般的に認知が広がっています。
ガミースマイルが起こる背景には、骨格の特徴、顎の位置、上唇の動き、歯並び、歯肉の位置など複数の要素が合わさって生じるものです。また、上唇が引き上がる“ライン”が強く働く方は、笑った瞬間に歯ぐきが目立ちやすくなります。
ガミースマイルは病気ではありませんが、見た目のコンプレックスにつながりやすく、まずはその特徴を知ることが改善への第一歩になります。
口臭の原因とガミースマイルの関連性
口臭は、お口の中で細菌が発生するガスによって生じます。日常生活の中で「笑うとにおいが気になる」という質問をいただくことがありますが、これはガミースマイルが口の乾燥を招きやすいことが根本の原因となっている場合があります。
ガミースマイルの方は笑ったときに唇が大きく上がるため、口腔内が外気に触れやすくなり、水分が蒸発しやすい環境になります。乾燥すると唾液の量が減り、細菌が増えやすい状態に。これは webでも多く取り上げられ、学会でも口腔乾燥が菌の増殖を促すことがあります。
ガミースマイルの原因
遺伝的要因と生理的要因
ガミースマイルの原因には、骨格や筋肉の働き、歯肉の形態など多くの要因が複雑に関係しています。特に遺伝的な影響は大きく、骨格の形は個人によって異なり、その可能性や度合いにも幅があります。
主な原因は次の3つに大別できます。
① 上顎の前方突出(垂直的過成長)
遺伝的に上顎骨が下方向へ伸びやすい方は、唇との距離が長くなり、笑う際に歯茎が露出しやすくなります。
骨格の要因は本人ではコントロールできず、原因の度合いや自然な見え方も個人差が大きい特徴があります。
② 歯の萌出過多(歯が長く見えるタイプ)
歯が本来の位置より下方に生えている場合、歯茎が大きく見えることがあります。
このタイプは歯列矯正やラミネートベニアやセラミック治療で整う場合があります。
③ 上唇挙上筋の過活動
上唇を引き上げる筋肉(上唇挙筋)が強く働きすぎることで、笑うと唇が大きく上に引き上げられます。
この場合、ボツリヌス注射で筋肉の働きを弱めることで改善が期待できます。
口腔内の健康状態が与える影響
ガミースマイルは、口元の見え方だけでなく、お口の状態とも深く関わります。例えば、過剰な食いしばりがある方は筋肉が緊張しやすく、唇が引き上げられやすい状況が生まれます。また、歯肉に炎症があると歯ぐきの腫れにより露出が強調され、印象が悪く見えてしまうことも。
環境が整わず、ケアが十分に行き届いていない状態が続くと、ガミースマイル自体が悪化することもあります。実際、多くの患者さまが「ガミースマイルと口臭が気になる」と来院されます。
お口の状態は自己判断しにくいため、状況に応じた専門的なチェックを受けていただくことが改善への近道です。
ガミースマイルが引き起こす口臭のメカニズム
歯周病と口臭の関係
口臭の約7割は歯周病が原因と言われています。
歯周病は歯垢内の細菌が歯肉に炎症を引き起こし、悪臭を伴うガス(VSC)を発生させる病気です。ガミースマイルの方は歯ぐきが露出しやすく、歯垢が停滞しやすいため、歯周病が進行する程度が強くなる傾向があります。
また、前歯の前突顎関節症による噛み合わせのズレ、親知らず周囲の細菌繁殖も口臭悪化と関連します。
来院される多くの方が「歯茎がしみる」「前歯の付け根が痛い」という訴えを持っており、それは炎症のサインであることが多いです。気になる症状がある場合は、早めに歯科医院へご相談ください。
歯肉の炎症がもたらす影響
歯肉に炎症が起こると、歯茎が腫れたり出血したりする症状が現れます。歯肉が弱った状態では細菌に対して過敏になり、においのガスが発生しやすくなります。
食いしばりや歯ぎしりが強い方は筋肉が緊張しやすく、歯肉への負担が増えるため炎症が治りにくくなることがあります。ストレスが強い方も症状が悪くなりやすいため注意が必要です。
また、炎症が強いと歯肉が生え際から盛り上がり、ガミースマイル時に露出が増えることで、より印象が悪く見えやすくなることもあります。
口呼吸とドライマウス(お口の乾燥)
ガミースマイルの方は口呼吸の傾向がみられることがあり、口呼吸が続くとお口が乾燥して唾液の働きが低下します。唾液には細菌を洗い流す作用があるため、乾燥するほど細菌が増えやすく、口臭が強くなる悪循環が生じます。
また、ドライマウスは歯肉炎や歯周病を進行させやすく、ガミースマイルの症状をさらに悪化させることもあります。
ガミースマイルを放置するリスク
見た目のコンプレックス
ガミースマイルを放置すると、まず影響を受けやすいのが「見た目」に対する悩みです。笑ったときに歯ぐきが多く見えると、外見に対するコンプレックスを抱きやすくなり、自然な笑顔が作りにくくなるケースがあります。
審美面での不満は、単に“歯ぐきが気になる”というだけでなく、自分の顔全体のバランスが悪いように見えてしまうなど、知覚的な影響も大きく、日常生活で自信を失う原因にもなります。
また、ガミースマイルは本人が思っている以上に他人からの印象に関わる場合があり、「写真で笑えない」「人前で気になる」と相談される方も少なくありません。治療を受けることで外見が改善し、自信を取り戻せるケースが多く見られます。
口腔内の健康リスク
見た目だけでなく、ガミースマイルや口呼吸を放置すると口腔の健康にもリスクが生じます。歯ぐきが露出しやすい方は歯肉が乾燥しやすく、炎症が起こりやすい傾向にあります。この状態が続くと歯周病や虫歯が発生する確率が上がるため、不安を抱える方が多くいらっしゃいます。
また、「ガミースマイルで歯ぐきが見えやすい方は、歯茎トラブルを上の前歯に抱えているケースが多い」という臨床データがあります。歯周病や虫歯が進行すると噛む力もダウンし、お口全体の健康に影響する可能性もあります。
さらに、日本口腔インプラント学会でも“歯肉の炎症と口臭・歯周病の関連”が指摘されており、放置するほどリスクが高まると言われています。
ガミースマイルの治療法
歯科矯正によるアプローチ
ガミースマイル改善の中でも、歯科矯正はよく選ばれる治療方法です。歯並びや上顎の位置が影響している場合、矯正歯科や審美歯科での歯列矯正によって歯ぐきの露出を抑えられることがあります。
特に、上顎が前方に出ているケース(出っ歯)では、歯列を引き上げるような調整を行うことで、笑ったときの露出量を減らす効果が期待できます。
近年ではインビザラインのようなマウスピース矯正も普及し、見た目に配慮しながら治療したい方に最適です。ホワイトニングと合わせて行う方も多く、総合的に審美性を高める手段として人気があります。
矯正は時間がかかるものの、歯並び全体を整える根本的なアプローチとして非常に有効です。
外科的治療の選択肢
ガミースマイルの度合いが大きい場合には、外科的治療が検討されます。
骨格由来の場合は、より精密な整形的アプローチが必要になることもあり、治療法は大きく3つ以上の選択肢が存在します。
◆ 上唇粘膜切除術(リップリポジション)
唇が上方向へ上がりすぎる動きを制御する治療。
大きな改善をできるが、後戻りが早い。
◆ 歯肉整形(クラウンレングスニング)
歯茎の一部を切除し、歯の見える部分を調整する治療。
過剰な歯肉が原因の場合に有効。後戻りがないか。効果の持続期間が長い。
◆ 上顎骨の外科矯正(骨切り術)
骨格が大きく関与する重度ケースに適用されます。
精密な治療で審美・骨格の改善を同時に行えます。
手術後は腫れが出ることもありますが、機能・審美面の両方で大きな変化が得られるケースが多いのが特徴です。
入院が必要な手術でインプラント治療とは異なりますが、外科分野の高度な技術を用いて改善する点では共通しています。
ボツリヌス注射による筋肉制御
唇を引き上げる筋肉の活動を弱め、歯茎の露出を少なくする効果があります。
- 痛みが少ない
- 施術時間が短い
- ダウンタイムが軽い
- 3〜6ヶ月持続
手軽に改善したい方に人気の治療です。
ラミネートベニアによる見た目の改善
歯ぐきではなく「歯の形」や「歯の長さ」が原因でガミースマイルに見えるケースでは、ラミネートベニアによる改善が有効です。
ラミネートベニアとは、歯の表面に薄いセラミックを貼り付ける治療法です。歯を長く見せたり形を整えたりする審美治療で、ガミースマイルの見た目を改善できることがあります。
当院では、歯への負担をできるだけ抑えるために、歯をほとんど削らない「削らないラミネートベニア」も取り入れています。
天然の歯を大きく削ることに抵抗がある方でも選択しやすく、治療期間も比較的短く、仕上がりも自然なため、「美しい笑顔を手に入れたい」とお考えの方に選ばれている治療方法です。
口臭対策とガミースマイルの改善
日常的な口腔ケアの重要性
ガミースマイルと口臭を同時に改善するためには、まず日常的なケアが必要です。入れ歯を使用している方も、天然歯の方も、情報を正しく知ることが改善の近道になります。
小児から大人まで一般的に共通しているのは、歯垢を残さないことと、歯肉の炎症を予防することが最も重要だという点です。
正しいブラッシング、デンタルフロス、舌清掃など、お口全体の働きを整える習慣を身につけることが大切です。
専門的な治療とその効果
日常ケアだけでは改善が難しい場合、歯科医院での専門的な治療が効果的です。
歯科医院では、症状の特徴や口臭の原因を詳細に分析し、患者さまに合った治療法を提案します。治療は歯石除去、歯周病治療、ガミースマイル改善などさまざまですが、いずれもお口の機能を整えることを目的として行います。
特に、ガミースマイルの相談では、専門ドクターによるカウンセリングで状態を見極め、必要に応じて施術や外科的処置を組み合わせるケースもあります。
技術の進歩により、短期間で効果を感じられる治療も増えており、笑顔の改善と口臭ケアを同時に進められます。
ガミースマイルに関するよくある質問
Q:口臭が気になる場合のセルフケアは?
A:ガミースマイルと口臭の両方が気になる場合、まず日常でできるセルフケアから始めるのがおすすめです。「口臭を急に感じるようになった」「汚れが落ちているか不安」という方は、口呼吸の改善を行うこと。歯磨きだけでなく舌の清掃やフロスの使用など、細かなケアを取り入れると効果的です。
矯正治療中でワイヤーが入っている方は、汚れがつきやすくにおいが強くなることがあります。そうした場合は、補助的なブラシや洗口液で対策を行うとよいでしょう。
なお、セルフケアでは改善しにくいケースもありますので、いつでもお気軽にご相談いただければと思います。状態を確認し、最適な対策・治療をご提案いたします。
Q:ガミースマイルを治すと口臭も改善しますか?
A:ガミースマイルの治療によって口呼吸を改善すると口臭が改善するケースは多くあります。
歯ぐきの露出による乾燥や口呼吸が原因で口臭が強くなっている場合、治療後に唇の動きや歯肉の見え方が整うことで、お口の乾燥が軽減され、細菌の増殖が抑えられるためです。
ただし、口臭の原因は口呼吸だけではありません。歯周病・舌苔・虫歯などの病的要素が関わる場合は、それぞれの治療も必要になります。
ガミースマイル治療は見た目の改善だけでなく、口腔環境を整えて口臭リスクを下げる効果が期待できるため、両方を意識したケアが大切です。
ガミースマイルと口臭の予防
生活習慣で注意したいポイント
ガミースマイルや口臭を悪化させないためには、日常生活の中で注意すべきポイントがいくつかあります。
- 鼻呼吸を意識する
- 水分をこまめに摂る
- 唾液腺マッサージ
- ストレス管理
- バランスの良い食事
これらにより乾燥を防ぎ、細菌の増殖を抑えられます。無理なく続けられる習慣から取り入れるのがおすすめです。
歯科医院での定期的な検診の重要性
ガミースマイルや口臭を予防するためには、定期的な歯科検診がとても大切です。歯ぐきが見えやすい方は、前歯まわりの歯肉が炎症を起こしやすく、笑ったときに歯ぐきが強調されてしまうケースも少なくありません。
そのため、定期的に歯科医院でのチェックを受け、虫歯や歯周病を早期に発見・予防していくことが重要です。
また、歯科医院で行う専門的なクリーニングは、ご自宅のケアでは落としにくい汚れまでしっかり除去できるため、口臭リスクの軽減にも効果的です。歯肉を健康な状態に保つことは、口臭対策としてだけでなく、口元の審美的な印象を長期的に高いレベルで維持することにもつながります。
まとめ
ガミースマイルの改善がもたらすメリット
ガミースマイルを改善することで、口元のバランスが整って笑顔がより自然で魅力的に見えるようになります。
治療にはある程度の時間や料金がかかりますが、上唇の動きや歯ぐきの露出をコントロールし、歯ぐきの見える量を引き上げる・少なくするなどの調整を行うことで、見た目と口臭の両方に大きな変化が期待できます。
コンプレックスが軽くなることで、人前で笑う機会も大きく増え、対人関係や自己評価が高くなることも少なくありません。将来を見据えた投資としての価値も高く、トータルで得られるメリットは非常に大きいといえます。
口臭対策と健康的な口腔環境の維持
口臭を抑え、健康的な口腔環境を維持するためには、毎日のケアとあわせて原因に対応していくことが大切です。
また、唾液にはお口の中をきれいに保つ自浄作用があり、唾液量が十分にあると歯や歯ぐきの周囲に付着した汚れを洗い流し、口臭を防ぐ助けになります。歯磨きやフロス、舌の清掃といった基本的なケアに加え、必要に応じて専門的なクリーニングや矯正治療を組み合わせることで、「短い」期間でも少しずつ環境を整えていくことが可能です。
ガミースマイルと口臭は別々の問題に見えて、実は密接に関係しています。お一人おひとりに合ったケアを継続し、長期的に安定した口元の健康を目指していきましょう。
お悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
医師プロフィール

阿部 洋太郎
日本大学松戸歯学部を卒業後、歯科保存学入局
千葉県の歯科医院、都内の歯科医院にて勤務
松島歯科・新橋インプラントオフィスにて副院長およびインプラントオフィス所長を兼務
日本大学大学院松戸歯学研究科を卒業
(インプラントと口腔粘膜病変の研究、コラーゲンとエラスチンの研究、カンジダと癌の研究)
審美歯科、ラミネートベニアを専門的に行っており、日本各地や海外からのご来院にも対応している
詳しい経歴や医師の想いについては、医師の紹介ページをご覧ください。